2006年2月4日 読書
ISBN:4344009223 新書 麻耶 雄嵩 幻冬舎 2006/01 ¥880

 久しぶりに新書の麻耶雄嵩を見つけ、迷わずに買ってしまった。そして、いつものごとく一気に読了。でも、読後の感想としては、ちょっと残念なものになった。

 どのようなトリックなのか。もしかしたら、また「夏と冬の奏鳴曲」のような世界が繰り広げられるのか。そんな期待を抱きながら読み始めたボクだったが、結果としてはかなり理性的な仕立てになっていた。一部、狂気の世界が描かれているのだが、それも次第に理性的な世界へと還元されていく。そういう意味では、まっとうなミステリーになったとも言えるのだが、ファンとしてはその読み応えが少し残念だった。

 読み終わったあと、なんか物足りなさを感じたボクは、少し最初から読み返してみた。すると、非常に計算された、というか、計算されつくされた作品であることがわかってきた。
 しかし、その計算は絶妙に計算されすぎていた。いろんなところにダブルミーニングがあるのだが、嘘がない。破綻してない。だから、本当にどちらで読んでも問題がない。言い換えれば、そこに気が付いたとしても、論理的につなげて読めてしまうのだ。これは、あとから読んでもイマイチ面白くない。なぜかというと、「ああ、ここにこんな風に書いてあったじゃないか!」という悔しさがないからである。自分の読んだ読み方が、否定はされていない以上、その可能性は残ってしまい、両方の可能性がある以上、自分は間違っていないと言い張ることができる。そうなると、騙されるというか、自分の見逃しを突かれるという、本格ミステリーの醍醐味が半減してしまう。
 これは個人的な意見ではあるが、ボクとしてはもうちょっと作者流の読み方に偏った書き方をして欲しかった。ダブルミーニングを意図させるとしても、よく読むと作者の求める読み方しかできないようにして欲しかった。そこが、微妙にボクを失望させ、計算しつくした、その本格ミステリーを書くにあたっての技術力は評価するものの、作品としての評価は少々低くならざるを得なかった。

 この作品については、その計算されている部分について、高く評価をする人もいるだろう。しかし、それがなんとなく彼の持ち味を損なっているようにも感じられ、ボクは少々残念な気持ちになったのであった。

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