ハローワークに行くと、必ずと言っていいほど待ち伏せをしている人たちがいる。カバンを持った女性であったり、きちんとした身なりのスーツ姿の男性だったりするわけだが、どちらも目的は同じ。女性が通りがかるたびに、「お仕事を探しているんですか?」と声をかける。そこで「ハイ」とでも答えると、次は名刺が現れて、お仕事してみませんかとなるのである。
 今年の東京は非常に暑い。それでも、彼・彼女たちはめげずに日陰を探して待ち伏せをする。待ち伏せをしているのが女性の場合、結構素性はわかりやすい。なぜならば、ほとんどの場合、自分の会社の主力商品名入りのクリアファイルを抱えているからである。だから、テレビのコマーシャルをちょっと注意してみていれば、彼女たちの会社はすぐにわかるのだ。それに対して、男性はわかりにくい。たまたま名刺を出しているときに隣を通りがかるしかないのだ。ただ、私はそういう場面に出くわしたことがあるのだが、その名刺を見たときに肩書きが営業所長となっているのを見て、営業所長にまでなってこんなことをするのかと同情をしてしまった。所長といっても、どうやらそれほど偉いものでもないらしい。
 今の時代、営業は大変だ。特に生命保険というのは、これから少子化の時代を迎え、入ってくるお金が減る代わりに出ていくお金ばかりが増えることになる。しかも、戦後世代は長生きしないという話もあり、予定よりも早く死なれてしまったら、それこそおまんまの食い上げだろう。経営努力というよりも、外的要因による問題だけに、当人たちもどうしようもないのではないかと予想するが、そういう意味では縮小均衡の道を目指さざるを得ず、さもなければ高付加価値の保険により、高い収益率を目指すより他ない。ただ、どちらにしろ末端にいる人間は不利だ。してみると、あそこで頑張っている男性たちも、最終的にはあまり救われないのかもしれない。女性たちを使って、自分たちだけが利益を得ようとしても、実は自分たちも搾取される側でしかなく、本当に搾取する人たちは、丸の内とか大手町あたりでクーラーの中にいながら、「今日は暑いなぁ」などと言いながら過ごしているのであろう。何とも哀しいことではないか。私はきっと、どちらかと言えば汗を流して「暑いなぁ」と言っている方であろうと思うが、涼しい室内で汗もかかずに、「暑いなぁ」などと言ってみる生活も、それはそれでつまらないような気がする。